こんにちは、まるしかです。
国別画家紹介の第2弾は、西洋絵画史でオランダとともに黄金時代を迎えたこともあるベルギー編です!
ベルギーの画家というとピンと来ない方もいるかもしれません。ベルギーの一部はかつてフランドルと呼ばれ、商業を中心とした一大都市でした。フランドルの方が馴染みがある名称ですよね。
有名どころを列挙してみると、8人いました。
ほんとは似たような国なのでオランダ・ベルギー編としたかったのですが、人数が多すぎて泣く泣く分けました😂 次回オランダ編にします。
- ベルギーの有名画家
ヤン・ファン・エイク | 1395年頃-1441 |
---|---|
ヒエロニムス・ボス | 1450年頃-1516 |
ピーテル・ブリューゲル | 1525~1530年頃-1569 |
ヤン・ブリューゲル(父) | 1568-1625 |
ピーテル・パウル・ルーベンス | 1577-1640 |
フェルナン・クノップフ | 1858-1921 |
ジェームズ・アンソール | 1860-1949 |
ルネ・マグリット | 1898-1967 |
ベルギー人画家の特徴は、幻想的。
想像の世界があふれ出る文学的な作風が多いです。
ちょっと間違うと悪趣味な方向に走る方も。
ベルギー人は感性が独特なんですよね。
もしくは一見普通に見えるんだけども、意味を知って初めて、恐ろしく感じる絵を描く人もいます。
そんなわけで、中野京子さんの怖い絵シリーズで、ベルギー人画家は選ばれがちです😅
描かれた意味を探るブームの中、ベルギー絵画は脚光を浴びているのではないでしょうか?
それでは解説です。
↓気になる画家の名前をクリックしてください。
- ヤン・ファン・エイク:油絵の創始者にして超絶技巧の持ち主
- ヒエロニムス・ボス:奇想画家の元祖
- ピーテル・ブリューゲル:寓意にあふれた幻想画家
- ヤン・ブリューゲル(父):花の画家
- ピーテル・パウル・ルーベンス:王の画家にして画家の王
- フェルナン・クノップフ:ベルギー象徴派の代表画家
- ジェームズ・アンソール:仮面や骸骨をモチーフにした近代ベルギーを代表する画家
- ルネ・マグリット:シュールレアリズムの大家
- 最後に
ヤン・ファン・エイク:油絵の創始者にして超絶技巧の持ち主
『アルノルフィーニ夫妻像』1434年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 wikipediaより
当時から「第一級の画家」「15世紀最高の画家」と称されたヤン・ファン・エイクは、油絵の創始者です。
それまではテンペラという、卵黄と水を使って顔料を伸ばしていく技法が中心だったのに対し、卵の代わりに油を使いました(テンペラ画はボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』やダ・ヴィンチ『最後の晩餐』が有名です)。
油絵の特長はぼかしやすく、また、色の塗り重ねで深みを出しやすく、リアルな描写表現が可能な点です。ヤン・ファン・エイクの精細な書き込み技術も相まって、15世紀では考えられないほど写実描写が完成されています。
ファン・エイクの描く人物の表情はちょっと硬い。
ですが、写真に迫る細密描写は色あせず、今でも人気の画家です。
代表作『アルノルフィーニ夫妻像』は隅から隅まで見るのが楽しいです。
有名なのは、
『アルノルフィーニ夫妻像』部分
「ヤン・ファン・エイクここにありき」というサインの下に、鏡に写っている赤と青の着物を着た人物が二人。
これは画家本人と公証人によって、結婚を法的に認める意味合いがあったそうですが、単なる結婚祝いの絵という説もあり、定まっていません。
どんな意味があるにせよ、細かいところも手を抜かず、いや、細かいところにこそ画家の意図が隠されているのは、いかにも北国の作家の作品という感じですね。フェルメールも謎が散りばめられてますし。
ヤン・ファン・エイクはベルギーの港町ブルッへで宮廷画家として活躍しました。宮廷からの注文と同時に、富裕層の依頼も受けています。先程の『アルノルフィーニ夫妻像』もそうですね。
エイクの代表作の一つ『ヘントの祭壇画』は、ブルッへ近隣の都市ヘントの裕福な商人から依頼を受けて描かれたものです。もともとはヤンの兄で同じく画家のフーベルトが手掛けていましたが、制作途中で死去、ヤンが後を引き継いで完成させたと言われています。
『ヘントの祭壇画』1432年 シント・バーフ大聖堂蔵 wikipediaより
『ヘントの祭壇画』翼をたたんだ状態 wikipediaより
『ヘントの祭壇画』はたたんだ状態の中段に受胎告知が描かれています。この絵の方が有名かもですね。
NHKの日曜美術館で解説していましたが、絵の世界にはないはずの木枠の影が床に映っていてお見事。背景の街並みの見える構造と合わせて二重の額縁構図は、空間を感じさせます。
ちなみに左下で手を合わせている老人が依頼主だそうです。
晩年は奥さんをモデルに、聖母マリアを描くことが多くなります。
『ルッカの聖母』では、赤ん坊キリストとの育児の一コマを切り取った絵が可愛い。
『ルッカの聖母』1436年 シュテーデル美術館蔵 artvee.comより
『宰相ロランの聖母』1435年頃 ルーブル美術館蔵 wikipediaより
描き込みがものすごい『宰相ロランの聖母』は名画ではあるのですが、キリストがものすごくおじさん顔なのが残念😅
これは、依頼主が国の偉い人だったので、神の子として厳格に描いたのです。
一方『ルッカの聖母』はどういう目的で描かれたのか不明ですが、イエスがちゃんと赤ちゃんとして描かれていることから、個人的な部屋に飾るためなのかなと思います。
ヒエロニムス・ボス:奇想画家の元祖
『快楽の園』1503年-1504年 プラド美術館蔵 wikipediaより
ヒエロニムス・ボスは現代も続く奇想画家の元祖といえる人です。
ベルギーの画家は幻想的な作風の方が多いです。そこは国民の気質も関係していますが、表現の模範となったのはボスです。
代表作『快楽の園』、大抵の方が気になる右パネルの地獄の絵を拡大してみましょう。
『快楽の園』一部(「樹幹人間」と「耳の戦車」) wikipediaより
『快楽の園』一部(「地獄の王子」) wikipediaより
ここまで発想がぶっ飛んでいながら、傑作を作り上げた画家は数えるほど。しかも今から500年以上前の作品ですよ!?
当時は肖像画でなんとか生計を立てている画家が多い中、自由過ぎる絵を描いて、それでいて人気も高かったようですから羨ましいですよね。
20世紀を代表する画家で、溶けた時計の絵で有名なダリも、ボスのユニークな作風にインスパイアされました。これからご紹介するベルギーの画家も影響を受けた人は何人も出ています。
代表作『快楽の園』はスペインにあります。
スペイン国王フェリペ2世が競売にかけられていたこの絵を気に入って購入したためです。今はプラド美術館にあり、プラドの至宝と呼ばれている傑作です。
この絵に関してはwikipediaにかなり詳細な解説があって、わたしでは太刀打ちできませんからこの辺りで。リンクを置いておきます。
ボスは日本でも人気があり、解説本がたくさん出てます。
そっちを読んでもいいかも。わたしも買って勉強します!
ピーテル・ブリューゲル:寓意にあふれた幻想画家
『バベルの塔』1563年頃 美術史美術館(オーストリア、ウィーン)蔵 wikipediaより
ピーテル・ブリューゲルは寓意をちりばめた画家です。
農民の素朴でキャラクターのような人物描写が親しみやすく、当時人気が出ました。
『バベルの塔』は有名です。バベルの塔もそうですが背景の家屋の描写がきめ細かい・・・
ブリューゲルはボスを尊敬し、素朴な絵の他に、恐ろしい絵も多数描いています。
中野京子さんの解説で恐ろしいと思ったのが下の絵です。
『ベツレヘムの嬰児虐殺』1565年前後 ロンドン・ハンプトンコート王室コレクション artveeより
詳しく見るとなんのことやらよくわかりません。みんな何をしているのだろう?
引っかかるのはこの絵のタイトルです。実は・・・続きは本で!
実はブリューゲル家は美術史でも類を見ない画家一族です。
その名を聞いてあれ?知ってる作風じゃないと思った方、もしかしたら、次に紹介する花の画家ヤン・ブリューゲルを思い浮かべたのかもしれません。そちらの方が有名ですからね。
ヤン・ブリューゲル(父):花の画家
『木製容器の花』1606-1607年 美術史美術館(オーストリア、ウィーン)蔵 wikipediaより
ヤン・ブリューゲルは花の画家として日本でも人気の画家です。
もちろん、ヨーロッパでも花の絵は大人気で、ヤンは家を何軒も持つほどの大富豪となったそうです。
北方の画家らしく丁寧な描写で、燃え上がるように配置された花々が素敵ですね。
花の一つ一つを重ならないように描く非現実感が、かえって豪華さを演出します。
ヤン・ブリューゲル(父)と書きましたが、彼の子供も同姓同名で、父親と同じような作風の花の絵で生計を立てていました。
ヤン・ブリューゲル(子)『ガラスの花瓶に入った花束』1637-1640年頃 個人蔵 ブリューゲル展(2018年)会場内で撮影
正直、親子のどちらが描いたか見分けられないレベルです。
ところどころ模様のあるチューリップ、実は病気です。当時はこの模様が流行りだったよう。
ヤンの孫、ヤン・ピーテル・ブリューゲルも結局は花の静物画で活躍した画家ですから、最初のヤンがいかに画期的だったかがわかりますね!
花に限らず、ブリューゲル一族は一族同士で人気のある絵画をコピーし生計を立てていた部分もありました。父親の絵を息子が模写して売るなんて、ざらでした。
稼ぐことを何よりも大事にしています。といっても、実力はどのブリューゲルもトップクラス。
特にヤン・ブリューゲルは後に紹介する大画家ルーベンスと親しく、共作するほどの仲でした。
ピーテル・パウル・ルーベンス:王の画家にして画家の王
『自画像』1623年 オーストラリア国立美術館蔵 wikipediaより
ルーベンスはバロック芸術を代表する画家です。
多作すぎて、代表作はと考えてみると、自画像がパッと思い浮かび上の絵を選びました。
ルーベンスは当時から大人気だったため、大規模な工房を持ち、殺到する注文をさばきました。
以前イギリスの画家で紹介したヴァン・ダイクもルーベンスの工房出身となります。
その才能は画家に収まらず、7ヶ国語を話す外交官としてイギリスやスペインに赴き、王に仕えました。
完全無欠の天才ですね。天才ですが、大きな波乱のない人生だったせいか、日本ではダ・ヴィンチほどの人気はありません。
今の私たちから見たら、肉感のありすぎる人物描写がウケないのもあるでしょう。
でも、子供を描かせたら、今でも通用する可愛さなのです。
『眠る二人の子供』1612-1613年頃 国立西洋美術館蔵 現地にて撮影
22年春まで休館中の国立西洋美術館に、個人的に傑作と思ってる『眠る二人の子供』があります。
開館したら、是非見に行ってください。上を向いて眠る子供の口もと、鼻に目を向けてください。
『クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像』1618年 リヒテンシュタイン美術館蔵 wikipediaより
12歳で夭折したルーベンスの長女クララ。
『男の子の肖像(ニコラス・ルーベンス)』1619年 wikiartより
クララの弟ニコラス。この子のほっぺたも可愛いですね!
こういう作品をたくさん描いたらよかったのにと思いますけども、悲しいかな、ルーベンスは忙しくて、身近な題材を選ぶ暇がほとんどなかったのです。
上のようなスケッチは、歴史画や神話に描かれる子供の描写の、参考程度でしかありませんでした。
さて、ルーベンスの絵の特徴です。
それは物語に入り込んでしまいそうになるほどのダイナミックな表現力です。
『キリスト昇架』(3連祭壇画の3枚のパネルをつなげて表示)1610-1611年 アントウェルペン、聖母大聖堂蔵 wikipediaより
キリストの磔刑のシーン、十字架を立てようとする面々がマッチョすぎます。
キリストは目をひん剥いて・・・こんな表情をするキリストを描いた画家が過去にあったでしょうか。劇的です。
大袈裟かもしれませんが、一人の男を持ち上げるって、確かにこんな感じになるよなと気付かされますね。
ちなみに『キリスト昇架』は「フランダースの犬」(フランダース=フランドル。今のベルギーを含む地方の呼称)の主人公ネロが、命がけでも見たいと思った絵です。
ルーベンスの絵の特徴について、もう少し詳しい解説は以下の記事を参考にしてください。
フェルナン・クノップフ:ベルギー象徴派の代表画家
『愛撫』1896年 ベルギー王立美術館蔵 wikipediaより
クノップフはベルギー象徴派の代表画家です。
ルーベンスから200年ほど。ようやく代表画家の登場です。
ベルギー象徴派と書かれていますが、結局は文学や夢の世界を主題とする象徴派の人です。
ゴッホやゴーギャンに代表される後期印象派以降、アートシーンは世界で同じ傾向の画家たちが現れるようになります。ただし国や地域によって、微妙に特色が違うから、細かく分類されてベルギー象徴派となります。
象徴派といえば、もっと有名なのはオーストリア画家のクリムトですね。
クノップフはクリムトに影響を与えた人物と言われています。
親交もあり、上の『愛撫』をクリムト主導のウィーン分離派展に出展して成功を収めています。
『愛撫』はスフィンクスと男女両性を持つアンドロギュノスが抱き合うシーン。
スフィンクスといえば、旅人になぞなぞを出して不正解なら食ってしまう存在です。
そんな恐ろしい相手をやり込めて、こんな感じになってしまう奇跡の一瞬を描いたのか?
なんともシュールな光景です。
他には、
『香』1898年 オルセー美術館蔵 wikipediaより
『沈黙』1890年 ベルギー王立美術館蔵 wikipediaより
この2作品の装飾性や線の細さはクリムト作品に通じますね。
『見捨てられた街』1904年 ベルギー王立美術館蔵 wikipediaより
風景を描かせたら、この極端さ。クノップフの生まれた街ブリュージュです。
故郷といえど、現物を見ないで描いたそう。この不思議な逸話はまたまた中野京子さんの著作にて。
ジェームズ・アンソール:仮面や骸骨をモチーフにした近代ベルギーを代表する画家
『キリストのブリュッセル入城』1888年 ポール・ゲッティ美術館蔵 wikipediaより
アンソールは仮面や骸骨が登場する絵画を描いた巨匠です。
先のクノップフも含む20人会という画家集団の初期メンバーでした。しかし、あまりにも独特な性格と独特な画風から、あまり相手にはされませんでした。
無視された画風はだんだん表現主義やシュールレアリスムの画家から評価されるようになり、20世紀にはフランスの名誉あるレジオン・ドヌール勲章(日本で言う紫綬褒章みたいな)を得ています。ユーロ通貨になる前の100フラン紙幣の肖像にもなりました。
作品に頻出する仮面は、アンソールに馴染のあるものでした。彼の実家のお土産屋で仮面が売られていたのです。
というのも、故郷オーステンデ(オステンド)のカーニバルでは、仮面をつける風習があったのからです。
どういう意図で仮面だらけの画面にしようとしたのかは本人しかわからないところです。
カーニバルの賑やかな雰囲気が好きだったのかなと思うのと、仮面をつけてもつけなくても変わらないと思ったのかもしれません。
ルネ・マグリット:シュールレアリズムの大家
『大家族』1963年 宇都宮美術館蔵 上はamazon商品です。マグリットはギリギリ著作権生きてるみたいです。
ルネ・マグリットはシュールレアリスムの大家です。
ダリとともによく知られてますよね。シュールレアリスムとは非現実的ということです。シュールと略されて使われてますね。
マグリットは古典的な技法を使ってリアルに描く作風ですが、描くものが変わっています。
モノの持つ名前や意味を取っ払い、無理やり別の意味をつなげる。分かるものが分からなくなる。デペイズマンと言います(美術検定の頻出問題です)。
マグリットがなぜこんな絵を描いたのか?時代の流行りや本人の思想もあると思いますが、彼が画家兼広告デザイナーなのも理由でしょう。広告は一瞬で人の目を奪わないといけませんから。
宇都宮美術館に『大家族』という絵があります。
なぜこの絵が大家族?と思いますよね。マグリット作品のタイトルはひとひねりあります。
制作年の1963年に着目しましょう。第二次世界大戦が終わってベルギーが戦禍から復興しつつある頃なんですね。
鳥のシルエットから青空がのぞいていることから、大家族=ベルギー人が同じ空の下(Jpopの歌詞みたい笑)、希望を見ている?
でもこの考察はちょっと安易すぎるのではと思っちゃいます。鳥は飛び立とうとしているようにも見えますからね。
希望が見えているのだけれども、飛び去ってしまって、未来は暗いままかもしれない。期待と不安。そんな心の揺らぎが現れているかもしれません。
最後に
以上、ベルギーの有名画家・絵画の解説でした!
調べたら前評判通り、癖が強い。次に描こうとしているオランダ人画家は、意図を秘める点は同じですが、もっとノーマルな作風ばかりです。隣の国なのにこの違いはなぜ?面白いですね!
それでは!
こちらはイギリス人画家についての記事。
印象派を拡大してみた感想もあります。